位置的頭蓋変形症(いちてきとうがいへんけいしょう、英: positional skull deformity、positional cranial deformity、positional skull deformation、positional cranial deformation)とは、胎児期や乳児期に頭蓋へ圧力が加わることによって生じる後頭部の扁平や非対称な頭蓋のこと。アメリカなどでは、俗に「Flat Head Syndrome(フラットヘッドシンドローム、フラットヘッド症候群、絶壁頭症候群)」と呼称する。

沿革

欧米と日本では、沿革に大きな違いがある。

欧米

欧米では、うつ伏せ寝が乳幼児突然死症候群の危険因子であることが判明したため、うつ伏せ寝の文化から仰向け寝の文化へと一大転換が図られた。しかし、その結果として乳幼児の頭蓋変形が飛躍的に増加し、頭蓋変形に対する医学的な研究が発展するとともに社会的な意識も高まった。

日本

他方、日本では、そもそも仰向け寝の文化であったことに加えて、下記のような誤解が蔓延しているため、頭蓋変形に対する意識が高まらず、現在に至っている。

  • 「頭の形は遺伝で決まる」という誤解
  • 「頭の歪みは自然に治る」という誤解
  • 「いびつ頭は健康に影響しない」という誤解

種類

頭位性斜頭症(変形性斜頭症)

「頭位性斜頭症(とういせいしゃとうしょう、英:positional plagiocephaly)」または「変形性斜頭症(へんけいせいしゃとうしょう、英:deformational plagiocephaly)」とは、非対称な頭蓋の状態のこと。多くの場合、片側性の後頭部の平坦化と対側の前頭部の突出により菱形の頭蓋となる。

頭位性短頭症(変形性短頭症)

「頭位性短頭症(とういせいたんとうしょう、英:positional brachycephaly)」または「変形性短頭症(へんけいせいたんとうしょう、英:deformational brachycephaly)」とは、頭長幅指数が81%以上の状態 (客観的)または前後径が幅に比較して短い状態(主観的)のこと。後頭部扁平を併発することが多い。

頭位性長頭症(変形性長頭症)

「頭位性長頭症(とういせいちょうとうしょう、英:positional dolichocephaly)」または「変形性長頭症(へんけいせいちょうとうしょう、英:deformational dolichocephaly)」とは、頭長幅指数が76%以下の状態(客観的)または明らかに頭の前後径が横径に比較して増加している状態(主観的)こと。

後頭部扁平

後頭部扁平(こうとうぶへんぺい、英:flat occiput)とは、後頭部の曲率半径が減少している状態のこと。俗に「絶壁頭(ぜっぺきあたま、英:flat head)」と呼称される。短頭症に伴うことが多いため、区別されないことが多い。ただし、両者は区別すべきだとされる。

疫学

日本

日本では、生後1カ月から7カ月までの正常乳児の75%に位置的頭蓋変形がみられた。

アメリカ

アメリカでは、1歳未満の乳児の16~48%に位置的頭蓋変形がみられた。

カナダ

カナダでは、生後7から12週までの健康な新生児の46.6%に頭位性斜頭症がみられた。

診断

まずは、頭蓋骨縫合早期癒合症の診断を行う。

頭蓋変形に該当するかどうかは、頭長幅指数(英:cephalic index)によって診断する。

原因

胎児期や乳児期に頭蓋へ外圧が加えられることによって発症する。

出生前

  • 骨盤位(いわゆる逆子)
  • 横位
  • 多胎
  • 児童の骨盤腔内への早期下降

出生時

  • 産道を通る際の外圧
  • 吸引分娩
  • 鉗子分娩

出生後

  • 向き癖
    特に、保育器内で右向きに寝かされる低出生体重児には右斜頭が多く見られる。
  • ベビーカーやベビーシート
    そのため、ベビーカーやベビーシートに乗せる時間を減らすよう勧告されており、代わりに抱っこ紐が推奨されている。どうしてもベビーカーやベビーシートに乗せるのであれば、巻いたタオルや枕を使うことが望ましい。
  • 頭部の打撲

健康への影響

かつては健康への影響はないと考えられていたが、現在では以下のような健康への影響があることが判明している。

発達遅滞

発達遅滞(英:developmental delay)を生じさせる可能性がある。厚生労働省の医療ニーズの高い医療機器等の早期導入に関する検討会においても以下のように記載されている。

  • 頭位性斜頭症児110人を対象に、ベイリー乳幼児発達検査(BSID‐Ⅱ)を実施。精神発達の点で発達が進んでいる児はおらず、7%の児に中度の遅れがみられ、3%の児に重度の遅れがみられた。運動技能発達の点で発達が進んでいる児はおらず、19%の児に中度の遅れがみられ、7%の児に重度の遅れがみられた。
  • 生後6ヶ月の頭位性斜頭症児と健康児とを対象に、ベイリー乳幼児発達検査(BSID‐Ⅲ)を実施。運動技能の点では、斜頭症児の方が平均して10ポイント低かった。認知・言語能力の点では、斜頭症児の方が平均して5ポイント低かった。
  • 生後36ヶ月の頭位性斜頭症児と健康児とを対象に、ベイリー乳幼児発達検査(BSID‐Ⅲ)を実施。認知・言語・適応行動の点で、斜頭症児と健康児の差が最も大きかった。運動発達の点で、斜頭症児と健康児の差が最も小さかった。
  • 頭位性斜頭症児とその健康な兄弟姉妹を対象に、就学後の実態調査を実施。就学後の頭位性斜頭症児の39.7%が、小学校で特別支援を受けていた。これに対し、同じ環境で育った健康な兄弟姉妹は、たった7.7%しか特別支援を受けていなかった。
  • 変形性斜頭症と診断された子ども155名のデータ(2010~2016年のデータ、4〜36ヶ月の子どもたちで平均9.9ヶ月)をレビューした論文によると、変形性斜頭症をもつ子どもにおいてベイリー乳幼児発達検査(BSID‐II)での統計的に有意な遅れが確認された。しかし、多くの患者では、急激な追いつきが確認された。また、精神運動発達指標(PDI、運動身辺面)の遅れは、他の先天性異常の影響を受けていただけであった。一方、心理発達指標(MDI、認知・社会面)の遅れは、PDIよりも変形性斜頭症以外の多くの要因(交絡因子)の影響を受けており、複雑であった。これらのデータより、この論文では変形性斜頭症と発達の遅れには確定的な関係はないと結論づけている。

頭痛

頭痛を発症する可能性がある。

顎関節症

顎関節症(英:Temporomandibular joint disorder)を発症する可能性がある。

斜頸

二次的斜頸(英:Torticollis)を発症する可能性がある。

脊柱側彎症

脊柱側彎症(英:Scoliosis)を発症する可能性がある。

外見への影響

顔面変形

位置的頭蓋変形症は顔面変形を伴うので、『位置的頭蓋顔面変形症』と呼称されることもある。

歯列異常

歯列異常を発症する可能性がある。

日常生活への影響

自転車用のヘルメットが合わなかったり、眼鏡が斜めになる。

予防

以下のような予防法がある。

タミータイム

タミータイム(英:tummy time)とは、乳幼児が起きているときに、保護者などの厳重な監督のもとで、乳幼児を腹ばいにして過ごさせる方法のこと。

体位変換法(リポジショニング)

体位変換法(英:repositioning)とは、乳幼児の頭の同じ位置ばかりが下に来ないように、乳幼児の体位を変える方法のこと。 治療法としても有効である。

治療

軽度では自然に改善する場合もあるが、中度や重度では改善しないことが判明している。厚生労働省の医療ニーズの高い医療機器等の早期導入に関する検討会においても以下のように記載されている。

ヘルメット治療

ヘルメット治療(英:helmet therapy)とは、オーダーメイドの「頭蓋形状矯正ヘルメット(英:remolding helmet、Cranial Remolding Orthosis)」を用いて、乳幼児の変形した頭蓋骨の形状を矯正する治療法。ヘルメット治療については、厚生労働省の医療ニーズの高い医療機器等の早期導入に関する検討会において以下のように記載されている。

治療できるのは定頸する生後3カ月から大泉門が閉鎖する生後18カ月までとされている。至適開始時期については、生後5~6カ月といわれている。 治療開始後に、医師が主導となって健診やヘルメット調整を行う場合と、技師(義肢装具士)が主導となってヘルメット調整を行う場合とに分かれる。 国産第一号:アイメット(Aimet)、大学病院取扱数国内一位:クルム(Qurum)などがある。

アメリカでは、年間に1万人程度がヘルメット治療を受けている。 オランダでは、新生児の1~2%がヘルメット治療を受けている。

日本で流通しているヘルメットは以下の通り。

  • アイメット(英: Aimet)
  • クルム (英: Qurum)
  • ベビーバンド(英:Babyband)
  • ミシガン頭蓋形状矯正ヘルメット(ミシガン大学式頭蓋形状誘導ヘルメット、英:Michigan Cranial Reshaping Orthosis)
  • スターバンド(英:STARband)

ただし、ヘルメット治療の効果に否定的な研究もある。

民間療法

上記の通りヘルメットによる治療が可能な期間は限定的であり、現在のところ他に医学的な治療法はないため、ヘルメットによる治療可能期間を過ぎてしまうとカイロプラクティックや整体などの民間療法に頼らざるをえないのが現状である。

子どもが位置的頭蓋変形症の著名人

ブログ等で子どもの位置的頭蓋変形症を公表している著名人は下記の通り。

  • 秋山莉奈
  • 大渕愛子

脚註

関連項目

  • 頭蓋骨縫合早期癒合症
  • 乳幼児突然死症候群
  • タミータイム
  • 向き癖
  • 斜頭症
  • 短頭症
  • 絶壁頭
  • 長頭症

外部リンク

  • “Prevention and Management of Positional Skull Deformities in Infants” - AAP Gateway
  • “Flat Head Syndrome & Your Baby: Information about Positional Skull Deformities” - healthychildren.org
  • “Guidelines for the Management of Patients With Positional Plagiocephaly” - The Congress of Neurological Surgeons
  • “Positional Plagiocephaly” - American Association of Neurological Surgeons
  • “Plagiocephaly and brachycephaly (flat head syndrome)” - NHS choices

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